社員が診断書を出してこない場合はどう対応する?産業医を活用した実務対応を解説

人事労務Aさん

社員が「診断書が出せない」と言っています。会社としてどう対応すればいいですか?産業医に相談できますか?

産業医 原

診断書がなくても会社として対応は可能です。状況によっては産業医を活用することで、実務上の整理や判断がしやすくなります。


診断書は「必ず必要」ではないが、就業規則次第で義務になる

診断書の提出義務は労働基準法には規定がありません。根拠はあくまで就業規則(または労働契約)であり、就業規則に明示されていなければ提出を強制することはできません。

「何日以上で提出が必要か」の基準は会社によって異なりますが、実務上3〜5日程度を目安に設定している企業が多い傾向があります。「4日以上」という目安が広まっている背景には、健康保険法に基づく傷病手当金の支給が連続4日目以降から始まる(最初の3日間は待期期間)という制度設計があり、これと対応させている企業が多いためです。法律上の直接根拠ではなく、実務慣行として定着したものです。

就業規則に診断書提出義務が明示されている場合、従わないと規則違反として懲戒処分の対象になり得ます。また裁判例においても、「医師の診断を求めることは労使間の信義・公平の観点から合理的かつ相当」として、就業規則に明示がない場合でも受診指示に応じる義務があると判示したケースがあります(自律神経失調症による休職満了後の受診拒否事例など)。

こうした条件で「病気を理由とする休業は診断書の提出が必要」と定めている企業が多く、提出しない場合は就業規則違反として扱われる可能性があります。人事としてはまず自社の就業規則を確認し、ルールに基づいて提出を依頼することが基本対応です。

実際は「出してこない」ケースはそれほど多くない

現場感としては、休業時に診断書を提出しないケースはかなり少ないのが実態です。傷病手当金の申請には主治医の証明が必要になるため、結果的に診断書やそれに類する書類はセットで出てくることがほとんどです。

復職を希望する場合も同様で、労働者側も職場復帰を望んでいる状況では会社の指示に従いやすく、診断書が出てこないケースは少ない傾向にあります。

例外的に診断書を出したがらないケース

一方で、以下のような状況では問題が起こりやすいです。

①費用負担がネックになる場合

診断書は保険適用外で3,000〜8,000円程度の費用がかかります。頻回に求められる、短期間で何度も提出が必要といった状況では、費用を理由に提出を渋るケースがあります。

②働き方をめぐる対立がある場合

本人が在宅勤務の継続を希望し、会社は出社を求めているような場合です。診断書は医療的な証明になるため、「出社不要」を証明できる病院が見つからず提出を渋る、あるいは意図的に提出を避けるケースがあります。

この状況は医療問題というより、実態としては労務上の対立になっていることがほとんどです。

産業医を活用した対応(実務的な落としどころ)

診断書が出てこない・働き方をめぐる対立がある場面で有効なのが、産業医面談による整理です。

①産業医の意見書で現状を再評価する

少し前に復職可の診断書が出ているが現状ではまだ不安があるので復職できない場合です。

2週間後に、産業医面談と意見書によって現状を再評価し、それをもって復職させる場合などです。

特殊なケースではありますが、実務上は一定数行われています。

産業医の意見書と主治医の診断書の関係については、産業医の意見書や診断書はどこまで従うべき?会社の判断との関係を実務目線で解説もあわせてご覧ください。

②働き方の調整で中立的な判断材料を得る

在宅勤務などで意見が対立している場合、産業医が会社の要望と労働者の希望を整理し、中立的な判断材料を提示することで、出社頻度の調整や業務内容の見直しといった落としどころが見つかることがあります。

重要:産業医で「すべて解決」はしない

産業医面談をすれば必ず解決するわけではありません。ただし、以下の点で解決に向かうための一歩にはなります。

  • 判断材料が整理される
  • 会社として説明責任を果たせる
  • 感情的な対立が緩和される

「産業医に丸投げすれば解決する」という期待は持ちすぎず、調整・整理の補助ツールとして位置づけるのが実務的には正確です。

まとめ

  • 診断書がなくても会社として対応は可能。まず就業規則の確認から
  • 実際は傷病手当金などと連動して自然に提出されるケースが多い
  • 問題になるのは費用負担や働き方をめぐる対立が生じているとき
  • 産業医は整理・調整の補助として有効だが、解決の保証ではない

よくある質問


診断書を提出しない社員を就業規則違反として処分できますか?

就業規則で診断書提出が義務付けられている場合、提出しないことは就業規則違反に該当し得ます。ただし、すぐに懲戒処分につなげるのではなく、提出できない理由を確認し、産業医面談などで状況を整理することが実務上は望ましい対応です。


産業医の意見書は診断書の代わりになりますか?

法的には別物ですが、実務上は産業医の意見書が診断書を補完する形で機能するケースがあります。特に復職判定では、主治医の診断書と産業医の意見書の両方を踏まえて会社が総合判断するのが一般的です。

投稿者プロフィール

原 達彦
原 達彦原産業医事務所 代表産業医
【経歴】
産業医科大学 医学部医学科 卒業。済生会系病院での臨床研修・救急、総合診療勤務を経て、複数の企業で嘱託や専属産業医を歴任。
その後、産業医学・公衆衛生の専門性を活かし、「原産業医事務所・梅田北オンライン診療クリニック」を立ち上げる。
京都大学大学院(社会健康医学系専攻)を修了し、働く人々の健康や医療アクセスの課題に向き合いながら、臨床と予防の両面から医療の新しい形を実践している。

【資格・所属】
日本産業衛生学会・社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)

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