復職を希望する社員を会社が止めることはできる?産業医の役割と実務対応を解説

人事労務Aさん

復職を希望している社員がいるのですが、会社として止めることはできますか?

産業医 原

復職の最終判断は会社にありますが、配置転換などの対応を尽くした上での判断が実務上求められます。無条件に復職を止めることはできない点を押さえておく必要があります。


復職は「本人の意思だけ」では決まらない

復職の可否は、本人の意思だけで決まるものではありません。実務上は以下の要素を総合的に踏まえて、最終的には会社が判断します。

  • 本人の意思
  • 主治医の診断書
  • 産業医の意見
  • 会社の受け入れ体制

そのため、「本人が復職したいと言っている=必ず復帰できる」というわけではありません。

「止める」には2つの意味がある

実務上、「止める」というのは大きく2つに分かれます。

  • 完全に復職させない
  • 一時的に復職を延期する

この2つは性質が全く異なるため、それぞれ整理する必要があります。

復職させないことはできるのか?

結論から言うと、可能ではありますが、実務上かなりハードルが高いです。

なぜ難しいのか

社員が正社員として雇用されている以上、会社都合だけで復職を拒否することは基本できません。

よくある会社側の理由として、「生産性が低い」「周囲に迷惑がかかる」「人間関係に問題がある」などがありますが、これだけでは復職拒否の理由としては不十分です。

裁判例から見た実務上の対応

ここで参考になるのが、片山組事件(最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決)です。

この判決では、職種を限定しない雇用契約であれば、会社は従業員を配置できる他の業務を検討する義務があると示されました。つまり会社としては、

  • 別部署での復帰
  • 業務内容の変更
  • 人間関係の調整

などの配慮を一度は行う必要があります。これらを尽くした上で、それでもうまくいかない、再度休職になる、トラブルが繰り返されるという経緯が積み重なった場合に、初めて復職不可や退職の方向に進むことが可能になります。

実際は「数年単位の対応」になることが多い

このような対応は、1回の判断では終わらず、複数回の試行が必要です。

  • 復職 → 再休職
  • 部署変更 → 再トラブル

といった経過を踏まえ、会社として十分な配慮を尽くした事実を積み上げる必要があります。復職させない最終判断は、数年単位の対応の結果になることが多いです。

「復職の延期」は現実的に可能

もう一つの「止める」、すなわち延期については、実務上は比較的よく行われています。

どんなケースか

  • 受け入れ部署の準備ができていない
  • 業務内容の調整が必要
  • 物理的な環境(席・設備)が整っていない

このような理由があれば、会社都合で復職時期を調整することが可能です。

延期の期間はどのくらいが妥当か

実務感としては、1ヶ月〜2ヶ月程度が常識的な範囲です。それ以上長くなると、不当な引き延ばしと見られる可能性があるため注意が必要です。

診断書が出ない場合の対応

復職延期の際に問題になるのが、主治医が「復職可能」と判断しているため、休職継続の診断書を書いてくれないケースです。その場合、産業医の意見書で補完することが可能です。

  • 産業医面談を実施する
  • 就業可否や配慮内容を評価する
  • 意見書として整理・提出する

診断書の取り扱いや産業医の意見書については → 社員が診断書を出してこない場合はどう対応する? もあわせてご覧ください。

産業医の役割は「会社判断の補強」

産業医は最終決定者ではありませんが、会社が合理的に判断するための材料を提供する存在です。特に以下のような場合に、産業医の意見が実務上かなり重要になります。

  • 主治医と会社の意見がズレている場合
  • 判断に迷うケース
  • 会社として説明責任を果たしたい場合

産業医面談をすれば必ず解決するわけではありませんが、判断材料が整理され、感情的な対立が緩和されるという意味で、解決に向かうための一歩になります。

まとめ

  • 復職は会社が最終判断する
  • 復職拒否は可能だが、配置転換などの対応を尽くすことが実務上求められる
  • 復職の延期は合理的理由があれば1〜2ヶ月程度は可能
  • 産業医の意見は会社判断の重要なサポートになる

よくある質問


主治医が「復職可能」と言っているのに、会社が復職を断ることはできますか?

可能です。主治医の診断は医学的意見ですが、復職の最終判断は会社が行います。ただし、配置転換などの対応を尽くした上での判断が求められます。産業医の意見書を活用することで、会社としての合理的な判断根拠を整理することができます。


主治医は復職OKと言っているのに、現場が受け入れを拒否している場合はどうすればいいですか?

現場の感覚だけで判断せず、産業医を介して就業条件を整理することが重要です。
現場が不安を感じるのはよくあることですが、そのまま拒否するとトラブルになります。実務では、産業医が「どの業務なら可能か」「どの程度の負荷までか」を具体化し、現場が受け入れられる形に調整していくことが多いです。感覚ではなく条件で整理するのがポイントです。


復職後すぐに再び体調を崩した場合、会社はどのように対応すべきですか?

一度の復職でうまくいかないことは珍しくなく、段階的な働き方の見直しが必要です。
復職直後は不安定になりやすく、再休職に至るケースもあります。重要なのは「失敗」と捉えず、勤務時間や業務内容を再調整することです。産業医と連携しながら、無理のない復職プランに修正していくことで、結果的に長期的な定着につながります。

投稿者プロフィール

原 達彦
原 達彦原産業医事務所 代表産業医
【経歴】
産業医科大学 医学部医学科 卒業。済生会系病院での臨床研修・救急、総合診療勤務を経て、複数の企業で嘱託や専属産業医を歴任。
その後、産業医学・公衆衛生の専門性を活かし、「原産業医事務所・梅田北オンライン診療クリニック」を立ち上げる。
京都大学大学院(社会健康医学系専攻)を修了し、働く人々の健康や医療アクセスの課題に向き合いながら、臨床と予防の両面から医療の新しい形を実践している。

【資格・所属】
日本産業衛生学会・社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)

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