産業医は途中で変更・解約できる?契約後に後悔した場合の実務ポイントを解説

今の産業医の先生、とても良い先生なんですけど、お忙しくてスケジュールが合わないのですが、先生と相談の上ですが、途中で変更ってできるんですか?

基本的には可能です。産業医との契約は法律上「準委任契約」に当たるため、原則として双方がいつでも解除できます。ただし、契約内容の確認と空白期間を作らない準備がとても大事です。先に話しておきましょう。
産業医との契約は「準委任契約」—原則いつでも解除可能
産業医の変更・解約は、基本的に可能です。その法的根拠となるのが、産業医委嘱契約の性質です。
東京高裁判決(産業医勧告事件)では、産業医委嘱契約の性質について「民法上の準委任契約に当たり、原則として双方がいつでも解除できる」と明示しています。ただし同判決は、労働安全衛生法が労働者の健康確保のために産業医に職務権限を与えていることを踏まえ、「契約解除が法の趣旨を実質的に失わせる場合は権利濫用に該当する」とも述べています(労働新聞 2022年)。
つまり、会社として合理的な理由があり、次の産業医の手当も適切に行っていれば、契約解除そのものが問題になることはほとんどありません。しかし、原則は話し合いで双方合意があることです。
また大切なのは「解除できるかどうか」より「どう進めるか」です。
まず確認すべき「契約書の内容」
産業医との契約変更を検討する際は、まず手元にある契約書の内容を確認するところから始めましょう。特に重要なのは以下のポイントです。
- 契約期間:いつまでの契約か(多くは1年更新)
- 更新日:契約が自動更新される日はいつか
- 解約予告期間:何ヶ月前までに通知が必要か(1〜2ヶ月前が多い)
- 解約通知の方法:書面による通知が必要か
実務では「契約日から1年更新・終了の1〜2か月前までにどちらかが通知する」という形式が多く見られます。この予告期間を把握したうえで、実際には4ヵ月-半年前から逆算して動き始めるのが現実的です。たとえば4月から先生が変わることが分かっているなら、前年12月頃から候補探しをスタートさせると余裕が生まれます。
実務上の最大の落とし穴:「空白期間」と法令違反リスク
産業医の変更で最もよくあるトラブルが「次の先生が見つからないまま契約が終了してしまう」ことです。会社としては「契約を切れば終わり」と思いがちですが、次が決まらないまま産業医不在の状態になると、法令違反となる可能性があります。
労働安全衛生法第13条第1項は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して産業医の選任を義務付けています。また労働安全衛生規則第13条第2項は、「選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任しなければならない」と定めており、この期間を超えると同法第120条による50万円以下の罰金の対象となります(参考:厚生労働省「産業医の選任・届出について」)。
すぐに罰金はないですが、1,2年空白の期間などは望ましくありません。
2023年以降、労働基準監督署は時間外労働80時間超の事業場への監督指導を強化しており、その際に産業医の未選任も合わせてチェックされるケースが増えています。罰則だけでなく、行政指導・是正勧告を受けるリスクもあるため、空白期間を作らないことが最優先です。
実務上の対策として、以下の3点を徹底することを強くお勧めします。
- 先に次の候補の産業医を探し、内諾を得てから現在の契約終了を進める
- 可能であれば引き継ぎ期間(1〜2か月)を設ける
- 空白期間を一切作らないスケジュールで動く
産業医が変わったら:実務上必ず必要な「届出手続き」
産業医が変更になった場合は、新しい産業医が決まった後に労働基準監督署への選任報告書の提出が必要です。
提出する書類は様式第3号「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」で、新しい産業医を選任した日から遅滞なく、所轄の労働基準監督署へ提出します(様式は厚生労働省サイトからダウンロード可)。
なお、令和7年(2025年)1月1日以降は電子申請が義務化されましたので、様式の提出方法も変わっています。電子申請が難しい場合は、所轄の労働基準監督署に直接問い合わせてください。
人事担当者が見落としがちなポイントですが、この届出を怠ること自体も法令違反の一つです。産業医の変更が決まったら、引き継ぎと並行して書類準備も早めに進めましょう。
変更を検討するきっかけになるケース
実務では、さまざまな理由で産業医の変更を検討するケースがあります。代表的なものをご紹介します。
先生が会社に来なくなった
開業医と兼業で産業医を担当している先生の場合、臨床業務が繁忙になり徐々に来社できなくなるケースがあります。最初は来てくれていたのに、1年単位で来訪頻度が下がるという状況が続く場合は、変更を検討する十分な理由になります。産業医面談は法定義務の一つであり、実施されないこと自体が企業のコンプライアンスリスクにつながります。
スケジュール調整ができない
メンタル不調で休職していた社員が復職を希望する際は、産業医面談が必要になります。ところが多忙な先生だと面談日を確保できず、本人の復職時期が遅れたり、人事労務対応が滞ったりする問題が生じます。こうしたことが繰り返されるようであれば、会社として変更を検討する合理的な理由になります。
人柄・会社との相性が合わない
単に「来る・来ない」だけでなく、先生の対応スタイルや考え方が会社の文化・理念と合わないケースもあります。「もっと積極的に産業保健活動を進めたい」「労働者との関係構築に強い先生に変えたい」といったニーズから、経験・実績のある先生に切り替える会社も増えています。
最初から失敗しない産業医の選び方
変更・解約の話をしていると、自然と「最初にどう選べばよかったのか」という問いにたどり着きます。
契約前に一度面談して人柄を確認することは基本です。産業医業務は継続的な関係になるため、相性が非常に重要です。そのうえで、以下の点を確認すると判断しやすくなります。
- 日本産業衛生学会専門医・指導医の資格を持っているか
- 労働衛生コンサルタントの資格を持っているか
- 産業医としての経験年数と担当企業数はどれくらいか
- メンタルヘルス対応や復職支援など、具体的な対応実績があるか
- スケジュール調整の柔軟性・対応力があるか
「資格があるから安心」ではなく、実際の経験・対応内容を聞いて会社として納得できるかどうかが最も重要です。
まとめ
産業医の変更・解約は、基本的には可能です。法律上も「準委任契約」として双方がいつでも解除できることが東京高裁の判決でも確認されています。
ただし、実務では以下の点に注意が必要です。
- 契約書の解約予告期間を確認し、早めに動く(現実的には半年前から)
- 次の産業医を確保してから現在の契約を終了する——空白期間を絶対に作らない
- 新しい産業医が決まったら遅滞なく労働基準監督署へ選任報告書を提出する(令和7年1月以降は電子申請義務)
「今の産業医でよいのか迷っている」「変更したいがどう進めればよいか分からない」という場合は、早めにご相談いただくことをお勧めします。
よくある質問(Q&A)
産業医を変更するとき、会社はどんな手続きが必要ですか?
新しい産業医を選任した後、所轄の労働基準監督署へ「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告(様式第3号)」を提出する必要があります。選任後は遅滞なく提出し、令和7年(2025年)1月以降は電子申請が義務化されています。また、現在の産業医との契約書に定められた解約予告期間に従って通知を行うことも必要です。
契約中に産業医が来社しなくなった場合、会社はどう対応すればよいですか?
まず先生に事情を確認し、一時的な事情か改善展望がないかを判断します。来社できない状態が数か月以上続く場合は、実質的に産業医不在と同じ状態であり、制度的なリスクも生じます。この場合、次の産業医の候補探しを外部の産業医事務所等に依頼しつつ、現在の契約を維持しながら並行して進めることが大切です。空白期間を作らない形で最善に進めることが重要です。
産業医の変更を検討していますが、どこに相談すればよいですか?
産業医事務所への相談が最もスムーズです。現在の契約内容の確認、次の候補の紹介、届出手続きのサポートをまとめて対応できるため、仲介会社や医師会への単一紹介に比べてスムーズに進めやすいです。弊社でも、原自身が担当する形や経験のある先生をご紹介する形で対応が可能です。まずはお気軽にお問い合わせください。
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